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内容紹介(Amazon)

永井荷風の『濹東綺譚』とは特に関係なく、平成十五年頃、まだスカイツリーもなく、牛レバ刺しが禁止されていなかった頃の、少しだけ懐かしいくらい昔の、上野ガード下を中心に、隅田川の西、浅草、御徒町、秋葉原あたりを舞台とする、ありそうであまりない一家の話。
上野の居酒屋の息子と御徒町の宝石商の娘が上野の芸大で出会い結婚。二人姉妹が生まれ、長女は父の居酒屋の女将を、次女は母の宝石商を継ごうとする。父が事故で死に、母は再婚する。姉妹はそれぞれ独り立ちしていく。


確かな技量で描かれる、東京下町のヒューマンドラマ


まず本作「墨西綺譚」を読んだ時の感想なのですが。
実に綺麗で丁寧な表現だなあ、と。
何というか、ある意味で懐古的というか、文章だけで「昔々」ではないけれど、作者 田中久三さんの紹介文にもある平成15年という「ちょっと昔」を十分に感じることができました。
何でしょうね?言葉の選びなのか、モチーフの描き方なのか。とにかく静かな臨場感がある作品です。
この時点で、田中久三さんの技量は推して図るべし。

ストーリーとしては、東京下町を舞台に、ある一家とそれを取り巻く人々のドラマが情緒深く、時にユーモラスに描かれております。
一人の主人公を通してではなく、その場のそれぞれのキーパーソンを通して、それぞれの立場から物語が描かれる為、シーンの移り変わりも多いのですが、この下町ならではの複雑な人間模様を感じるにあたっては、効果的に感じました。
丁寧な文章のおかげか、読んでいて疲れるということもありませんでした。


紹介文の「ありそうであまりない」というのは、まさしく言い得て妙な表現です。
人物の性格や器量、ドラマを描かれるにあたり出てくるモチーフ一つ一つが、ありそうであまりない、というか。
自然に読んでしまってから、後で「そんな無茶苦茶な」と思うと、次のシーンでは、ストーリー上の他の人物も同じことを思っていたりすることもあり。
派手な描写は無いのですが、下町のリアリティーを感じます。
なぜか全然、ジャンルも方向性も違うとは思いますが、ラズウェル細木氏の作品を思い出したというか・・・(単に居酒屋やバーの描写が好きだった感もありますが)

個人的にはキャラクターの中でも、桐子(キリコ)という、一家の次女が好きでした。
一言で紹介するなら・・・天才天然お嬢様(メイド)、になるんでしょうか?
これだけですと、最近もっぱら珍しくもないラノベ的設定に見えますが、この破天荒な設定の割に、(実際、言動も結構破天荒なのですが)記号的な破天荒さだけというではなく、基本的には人間的な生々しさを感じるでむしろ効果的に感じる上、ストーリーを読む上でも、ありがち感を一切感じさせなかった要因とも思います。

詳細はぜひ本書を読んでいただくということで、ここで細かくご紹介はできませんが、(そもそもストーリーがかなり練り込まれていますのでおいそれとご紹介などもできませんが・・・)個人的に読んでいてのリアクションとしては。


キリコ様、ぶたれてみたいです・・・


とか、

仙川学長・・・(T∀T)・・・

とか、

工藤さん、色々格好良すぎ・・・


とかでしょうか(´∀`*)


(注:この人はとても偏った読み方をしています。)


これも個人的な感想ですが。最後、「これから一体どうなるの」という寸止め感は逆に好きですが、もっと、この人たちのドラマを読んでみたい!というのも正直なところ。

読んで絶対、損は無いヒューマンドラマ、オススメします。




作家さん情報(Amazon)

著者:田中 久三

主に歴史小説、たまに現代小説も書きます。ウィキペディアもときどき編集していますので、tanaka0903 で探してみてください。
twitterは @tanaka0903 の他、歴代天皇御製を呟く「大御歌」@ohomiuta、旧暦の時報をお知らせする「時の鐘」(@tokinokane_bot) などもやってます。

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墨西綺譚
田中 久三
不知所終堂
2013-03-26